絶叫アトラクションに乗りたいけれど、あの「ふわっと感」や、乗った後の酔いが怖くて楽しめない…と悩んでいませんか。特に友人や恋人に誘われて遊園地に行った際、絶叫マシンに乗れないことで、周りの楽しみ方にギャップを生むのではないかという不安を感じる人も多いかもしれません。しかし、絶叫系が苦手な人は日本でも約3割以上存在するというデータもあり、珍しいことではありません。本記事では、絶叫克服を単なる「根性論」ではなく、人間の感覚と脳の仕組みから理解し、無理なく慣らしていくための具体的な練習法と心の準備について解説します。恐怖の原因を知り、物理的・心理的な対策を段階的に実践することで、遊園地での時間がより楽しく、充実したものになることを目指しましょう。
なぜ絶叫アトラクションが怖いのか
絶叫アトラクションが怖いと感じる主な要因は、身体的な反応と心理的な反応の組み合わせです。
最大の原因の一つは、急降下時に感じる内臓が浮くような感覚、いわゆる「浮遊感（ふわっと感）」です。この感覚は、物理学的には「無重力」または「マイナスG」（マイナス重力）状態として説明され、ジェットコースターが急降下する瞬間に車両の落下速度が重力加速度と同じか、それ以上になることで引き起こされます。体が軽くなって浮く感覚を覚え、特にマイナスGが強い場合、内臓までもが浮こうとするため、強い不快感や恐怖につながります。
この感覚の受け取り方には個人差があり、船酔いしやすい人は、内耳にある平衡感覚を司る「前庭系」の感度が高い傾向があり、わずかな重力変化も敏感に感じ取るため、より浮遊感を鮮明に体験しやすいと考えられています。急激な動きや高速での加速・減速は、耳の奥にある三半規管や耳石器を刺激し、脳が混乱することで、吐き気やめまいといった乗り物酔いの症状が出やすくなります。
心理的な側面では、高いところが怖いという高所恐怖症や、過去に怖い経験をしたことによるトラウマや心理的な障壁が影響します。また、次に何が起こるか分からないことへの不安（予期不安）から、落下することに身構えて体が固まり、かえって浮遊感を強く感じてしまうという傾向も指摘されています。
浮遊感を感じにくくする3つのコツ
浮遊感を軽減するには、内臓の浮きを防ぐ物理的な対策と、体の緊張を緩める心理的な対策を同時に行うことが重要です。
1. 腹筋に力を入れて内臓を固定する
浮遊感は内臓が浮こうとすることで生じるため、落ちる瞬間に息を吸い込み、グッと腹筋に力をこめることで内臓を固定し、浮きを抑えるのが有効とされます。腹式呼吸のように深く息を吸い、下降が始まったら鼻から少しずつ息を吐き出す際、腹筋に力を入れることは、マイナスGの影響を軽減し、ふわっと感を和らげるのに役立つ可能性があります。
2. 体の力を抜き、流れに身を任せる
恐怖で体が緊張しガチガチになってしまうと、かえって体にかかる圧力が強くなると考えられます。全身をこわばらせるのではなく、できるだけ脱力し、流れに身を任せてみることで、恐怖感が和らぎ、落差の感覚が「ふわっと浮くような感覚」に変わるという傾向が報告されています。安全ベルトで体をガッチリ固定するより少し緩めた方が、内臓だけが浮く感覚から体全体が浮く感覚に変えられるという考察もあります。手を安全バーに添える程度にし、体の緊張をほぐすように意識しましょう。
3. 叫びながら力強く息を吐き出す
落下に身構えて呼吸を止めてしまうと、恐怖心が増す可能性があります。声を上げながら息を力強く吐き出すことは、落下への注意をそらし、心理的にフワッと感を減らすことに役立つとされます。力任せの悲鳴ではなく、腹筋に力を入れつつ、腹の底から「オアアアアアアア」といった感じで息を吐き出すように声を出すのが推奨されています。普通の声の大きさで「わ～」など息を吐き出すだけでも、緊張感が緩む一助となるかもしれません。
なお、恐怖心から目を閉じてしまう人も多いですが、予期せぬ動きへの恐怖感が増したり、視覚情報と平衡感覚のズレにより乗り物酔いを引き起こしたりする可能性があるため逆効果とされることがあります。できるだけ目を開け、視線は遠くの一点、または進行方向を見て安定させることが、脳の混乱を和らげるのに役立つ可能性があります。
乗る前にできる「心の慣らし運動」
絶叫アトラクションへの恐怖心は、未知の動きや予期しない出来事に対する不安が大きく影響します。事前の準備と心理的な慣らし運動を行うことで、不安に対処する力を高めることが期待できます。
1. コースを予習し、全貌を把握する
ジェットコースターはレールが剥き出しであるため、ほぼ動きがネタバレしています。待ち時間などに、動画や体験レポートでアトラクションの全貌、特に落下タイミング、速さ、どんな景色が見えるのかといった情報を集め、頭に入れることが有効です。全貌が分かっていることで、変に恐怖心だけが募ることなく、冷静に「どこで力を入れ、どこで力を抜くか」を考えることが可能になり、不安を軽減するのに役立つ可能性があります。
2. 体調を万全に整える
乗り物酔いをしやすい人は、寝不足や疲れ、空腹や食後すぐの状態で乗ると症状が悪化する場合があります。遊園地に行く前日は十分な睡眠（7時間以上が目安とされる）をとり、体調を整えましょう。朝食は、脂っこいものを避け、消化にやさしいもの（おにぎりやパンなど）を腹八分目程度に抑えることが推奨されます。酔いが心配な場合は、市販の酔い止め薬を乗る30分から1時間前に服用することが対策の一つです。
3. 不安を和らげるための座席を選ぶ
絶叫マシンは一般的に後ろの席のほうが怖いとされる傾向があり、マイナスGの影響も強く受けやすくなります。可能であれば、揺れが比較的少なく穏やかとされる前方の座席、特に先頭席を選びましょう。先頭席は落下のタイミングや落差を目視で確認しやすく、覚悟を決めやすいというメリットもあります。テーマパークによっては、キャストにお願いすれば先頭席に乗せてもらえるケースがあるようです。
少しずつ挑戦できる練習アトラクション
絶叫マシンが苦手な人が克服するためには、いきなり最大の恐怖に挑むのではなく、軽い乗り物から始めて徐々にスリルを増していく「段階的な慣らし方」が有効です。体験を重ねることで、身体が急激な動きに適応し、恐怖心が和らぐ可能性があります。
【段階的にスリルに慣れるためのアトラクションの選び方（例）】
- 最初のステップ（低レベル）：急降下や高速回転がない、低速で高低差の少ないアトラクションから挑戦しましょう。東京ディズニーシー（TDS）のフランダーのフライングフィッシュコースターや、東京ディズニーランド（TDL）のカリブの海賊（最初の落差は小さい）などは、比較的難易度が低いとされる傾向があります。
- 次のステップ（中レベル）：ある程度のスピードと高低差に慣れます。TDLのガジェットのゴーコースターは速度が遅く、まっすぐ落ちる場所が少ないため、苦手な人でも比較的乗りやすいアトラクションです。TDLのビッグサンダー・マウンテンは、三大マウンテンの中では怖さが抑えられており、落下前にスピードを緩めてくれる特徴があるため、練習用として推奨される傾向が見られます。
- 最終ステップ（高レベル）：大きな浮遊感やスピード感に挑みます。TDSのレイジングスピリッツは1回転がありますが、遠心力の影響で浮遊感は感じにくいという意見もあります。TDLのスペース・マウンテンやTDSのセンター・オブ・ジ・アースなど、よりスリルのあるアトラクションに挑戦し、最終的にTDLで最も怖いとされるスプラッシュ・マウンテンへの挑戦を目指すなど、自分に合った順番でステップアップを計画してみましょう。
苦手な人と行く日の過ごし方
絶叫系アトラクションが苦手な人が、友人や恋人と遊園地に行く場合、お互いの好みを尊重し、無理に乗せることを避けることが大切です。絶叫系に乗れなくても遊園地を楽しむ方法はたくさんあり、「つまらない」という誤解を解消することが可能です。
1. 絶叫系以外のアクティビティを積極的に楽しむ
絶叫マシンを避けることで、パーク内の別の楽しみに集中することができます。
- エンターテイメント：絶叫系が苦手な人でも十分に楽しめる要素として、華やかなショーやパレード、キャラクターとのふれあい（グリーティング）などが挙げられます。
- ゆったり系のアトラクション：観覧車やメリーゴーランドといった、落ち着いて楽しめる乗り物でのんびり過ごすことも、リラックスした時間を過ごすのに最適です。
- グルメやショッピング：テーマパーク限定の美味しい食べ物や、グッズのショッピングを楽しむことも、スリルを感じることなく遊園地の魅力を満喫できるアクティビティです。
2. お互いの希望を尊重したプランを立てる
遊園地デートなどでは、絶叫系が苦手なことをパートナーに理解してもらうことで、他の楽しみ方を提案しやすくなります。事前にプランを話し合い、絶叫系が好きな人が乗っている間は、苦手な人はその間にカフェでゆっくりリラックスしたり、フォトスポットを巡ったりする時間を作るなど、お互いの希望を尊重することが満足度の高い一日を作るポイントです。東京ディズニーリゾートやハウステンボスなど、絶叫系以外のアクティビティが豊富なテーマパークを選ぶのも一つの方法です。
まとめ
絶叫アトラクションの恐怖は、マイナスGによる浮遊感と、予期不安や体の緊張といった心理的要因から生じます。克服するためには、「根性論」ではなく、身体的な仕組みを理解した上で、対策を講じることが重要です。
浮遊感を軽減するためには、腹筋に力を入れて内臓の浮きを防ぐ、全身を脱力させる、そして声を出しながら力強く息を吐くといった物理的・呼吸的なコツを実践することが推奨されます。また、事前にコースを予習して冷静さを保ち、体調を万全に整えて酔い止めを服用する、「先頭席」を選ぶなどの「心の慣らし運動」も欠かせません。
克服への道のりは、子ども向けコースターなどスリルの少ない乗り物から段階的に挑戦していくことで、無理なく進められる可能性があります。絶叫系が苦手であっても、遊園地にはショーやグルメ、ショッピングなど、楽しめるアクティビティが豊富にあります。お互いの好みを尊重し合い、無理のないペースで、遊園地での素敵な思い出をたくさん作りましょう。
